MAR. 2015



 

    日本人二人が過激武装集団「イスラム国」(The Islamic State *)に殺害されたというニュースは、日本だけではなく世界にもショックを与えました。殺害されたのは、湯川遥菜さん(42歳)、後藤健二さん(47歳)です。両氏の殺害映像は、1月24日、2月1日にインターネットで公開されました。

    湯川さんは、昨年7月下旬にシリアで行方不明となりました。その後10月下旬、ジャーナリストの後藤さんが「湯川さんを捜しに行く」という言葉を残してシリアの「イスラム国」支配地域に入り、音信が途絶えました。そして11月はじめ、後藤さんの家族に「イスラム国」から20億円の身代金を要求するメールが届いたということです。

                   安倍首相のエジプト演説が引金に

   一方、二人が依然として拘束されている2015年1月17日、安倍晋三首相がエジプトで演説し、「イスラム国」対策として2億ドル(約236億円)の支援をすると表明しました。その3日後の1月20日、「イスラム国」は「(安倍首相が約束した)2億ドルは『イスラム国』の拡大を防ぐためだ」として、3日以内に同額の2億ドルを払わなければ2人を殺害すると日本政府に警告したのです。残念なことに、その警告が事実となってしまいました。

    事件の恐怖が私たちを打ちのめしている間に、安倍首相は、テロリストに「罪を償わせる」という、「復讐」をほのめかす発言をおこないました(2月2日)。しかも、自衛隊が米国の空爆を支援することを口にし、そのためには憲法9条を改定する――など、首相が望む「憲法改定」を一気に進める姿勢を示しています。

    首相の言動は、9・11テロ事件の直後、ブッシュ米大統領(当時)が「復讐」を誓ったことを思いださせます。ブッシュ政権は、アフガニスタン侵攻をはじめ、無理やり口実をつくってイラクにも攻め込み占領しました。

 しかし、米国が「解放」したというイラクが、「イスラム国」のような武装集団をうみだす温床になってしまいました。

               米国のイラク占領が「イスラム国」のルーツ

    米中央情報局(CIA)の元情報員だったグラハム・フラー氏は、「米国は『イスラム国』の生みの親のひとり」だといいきっています。

    「米国はこの組織を意図的につくろうとはしていなかっただろうが、米国による中東諸国の破壊的介入とイラク戦争が、『イスラム国』をうみだす基本的な原因をつくったといえる。この組織の出発点は、米国によるイラク侵攻に反対することだった。その時期は、米国によるイラク占領に反対する多くの人々が彼らを支持した」(2014年9月のトルコでの発言から)

    さらに、イギリス『ガーディアン』紙記事「『イスラム国』:インサイド・ストーリー」(2014年12月11日)は、米占領下のイラクの刑務所内でひそかに組織づくりが始まったことを詳細なインタビューでつづっています。その一部を紹介します。

 ――2004年夏、一人の「ジハーディスト」青年がイラク南部のブッカ米軍基地内刑務所に連行された。この刑務所には、米兵によって捕らわれた2万人以上のイラク人が収容されていた。

    そのなかに、のちの「イスラム国」リーダーとなる人物もいた。この人物は米陸軍にも信頼されており、他の囚人たちとの会話も許されていたのだ。囚人たちは情報を交換しあい、計画を練ることができた。

    イラク政府によれば、「イスラム国」の重要な指導者となった25人のうちの17人は、2004年から2011年の間に米軍の刑務所に入っていたという。「イラクに米軍の刑務所がなければ、いまの『イスラム国』はなかっただろう」と、元囚人はいう――。

               軍事報復を選んだブッシュ政権の過ち

    さらにさかのぼって、「9・11事件にたいして軍事報復を選んだ米ブッシュ政権の過ち」を忘れてはならないというのは、米ジャーナリストのポール・ローゼンバーグ氏です。

 ――ブッシュ大統領は、(9・11事件の首謀者)ビン・ラディンの夢をかなえてやったといっていい。9・11事件の前、 ビン・ラディンは「聖戦士」になりたいと夢みていたテロリストの一人だった。ブッシュ大統領が、9・11事件を『犯罪行為』として対応するのでなく、 『戦争行為』とすることを選んだことで、ラディンが望むものを与えてやったのだ。

 第一に、アフガニスタンに攻め込むことで、ラディンがいう『これは西側のキリスト教とイスラム教の宗教戦争だ』という論法にお墨付きを与えた。 次に、イラクに侵攻してサダム・フセインを蹴落とすことで、ラディンをこの地域でもっとも影響のある地位に押し上げてやったのだ――

 ローゼンバーグ氏のいう「テロを犯罪ではなく戦争として扱い、軍事報復の道をとったことが、現在の中東地域の混乱を招く原因」という洞察は、日本人の私たちに「いまもっとも考えなければならないことは何か」を示しているのではないでしょうか。

*「The Islamic State」の訳として一般的に使われている「イスラム国」にならいました。 多くのイスラム教団体が「彼らは真のイスラムではない。むしろ『反イスラム』だ」といっていることを明記しておきたいと思います。