FEB. 2015







     ここ一年余り、日本という国のイメージの転落が止まらない。歴史修正主義、改憲、特定秘密保護法、原発事故対応、教科書問題、靖国参拝、さらには「慰安婦」問題、南京大虐殺の否認など後を絶たない舌禍騒動まで、日本は世界の批判にさらされ、今や地域の政治的ホットスポットである。 気になるのは、状況の異常さを当の日本国民がどれだけ認識しているかだ。

     2013年12月26日の安倍首相の靖国参拝に対して、被侵略国ならともかく米政府は、参拝当日に「失望」という、同盟国、特に米国の利権を最優先してきた自民党政権に向けた表現としては極めて強い語調をあえて使った大使館声明をだしている。主要メディアからも以下のような厳しい批判が続く。

                                   平和主義との決別

    「挑発行為」(ワシントン・ポスト2013年12月28日付論評 *1)、「リスキーな国粋主義」(NYタイムズ2013年12月26日付社説*2)、「平和主義との決別」(NYタイムズ2013年12月26日付 *3)「危険な修正主義」「(安倍氏は)日米関係の脅威」(共にNYタイムズ2014年3月2日付社説 *4)など。

   ザ・ジャパン・タイムズ(共同)によれば、首相の靖国参拝は米政府関係者からの再三の警告を無視する形で、「訪日中のバイデン副大統領との会談直後、予告なしに決行され、アジアの緊張緩和に奔走していたオバマ政権を失望させた」(2014年2月13日付 *5)。 米国が求める経済面のアジア再均衡より、日本は軍事を優先、ひたすら情動的、衝動的ともとれる安倍政権の言動は、アメリカには危険要因でしかなくなる。

   こうした安倍政権の体質に関しては、閣僚参拝のときすでにクリスチャン・サイエンス・モニター(CSM アメリカ・ボストンを本拠とする国際的なオンライン新聞)(2013年4月25日付 *6)も、「日本の安倍晋三、ついに国粋主義者の神髄あらわす?」と題して、「北朝鮮への対応で団結すべき時に」隣国韓国が、「歓迎し得ぬ日本軍国主義の象徴」である靖国の閣僚による参拝は、「歴史再解釈を拡大し対中韓関係を悪化」させていると指摘。また、「政権復帰直後はその国粋主義的本能を辛うじて抑え、経済復興に集中するかに見えた」が『もう一人の安倍晋三』が急速に姿を現し」、「隣国の怒りを煽り、地域の新たな緊張の可能性を作った」とした。 

     また、歴史認識の問題でワシントン・ポスト(2014年2月12日付社説 *7)は、「日本の前進に向け安倍氏は国家主義、とりわけ歴史修正主義の衝動を抑えられるのか疑問ではあったが、昨年4月、国会で歴史認識に関し『侵略という定義は学会的にも国際的にも定まっていない。国と国との関係でどちらから見るかで違う』とした首相の答弁は、『全ての前進を危険にさらす動き』」と非難した。

                                        政府にならうNHK

     籾井勝人NHK会長の公共放送、「慰安婦」に関する問題発言も各紙が取りあげた。シカゴトリビューン(2014年1月26日付 *8)は、「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない」などの発言は、事実に根ざした番組作りの強力な担い手だったNHKの海外活動でダメージとなると示唆。ワシントン・ポスト(2014年1月23日付 *9)も社説で、「政府報道官が『個人的発言』だとしてごまかしを試みたが、籾井氏は公的立場から『NHKは政府見解に沿うべき』と主張しており、その独立性と専門性を歪める憂慮すべき事態だ」とした。また、「慰安婦はどこの国にもあった」との籾井氏の発言は事実に反しており、軍によって組織された「日本独特の制度」であると改めて指摘。「河野談話を今修正する必要性」に疑問を突きつけた。

     百田尚樹NHK経営委員の南京大虐殺否認と「東京裁判は米軍の戦争犯罪をごまかすためのもの」などの発言には、米大使館がタイム誌で「非常識だ」と抗議、ケネディー駐日大使のNHK出演も難航する事態となった。同社説は「日本政府がこうした発言を明解に糾弾できない」ことが問題であり、とりわけ両氏を抜擢した安倍氏の責任 は特に重いと断じた。

                                         日本の国際評価に傷

   オバマ政権のアジア基軸政策にとって、安倍国粋主義の暴走は頭痛に種でしかないとされる中、これまで安倍氏の好戦的姿勢の後ろ盾だった米ネオコンの知日派重鎮アーミテージ元国務副長官でさえ、首相の靖国参拝については、中国を外交的に利すると反対を明言。「慰安婦」問題に関しても、「現代の日本国民に対する国際評価を傷つけている」と指摘(ワシントン共同 2014年2月28日付 *10)するに至っている。

   国際的に孤立を深める安倍政権の暴走を、国内外のメディアの声が今後いかに制してゆけるか、我々日本国民の良識と民度こそが問われている今、しっかり見守る必要がある。

                                                                                                   (たけうち まや)


*1 日本の首相の戦争神社参拝は挑発行為 “Japanese prime minister’s visit to war memorial was provocative act”
*2 日本のリスキーな国粋主義 “Risky Nationalism in Japan”
*3 靖国参拝により、日本の指導者が平和主義路線からの決別を宣言 “With Shrine Visit, Leader Asserts Japan’s Track From Pacifism”
*4 安倍氏の危険な修正主義 “Mr. Abe’s Dangerous Revisionism”
*5 安倍氏はオバマ氏の信頼回復とワシントンとの関係修復が必須 “Abe must regain Obama’s trust to repair ties with Washington”
*6 日本の安倍晋三、ついに国粋主義者の神髄あらわす? “Is Japan’s Shinzo Abe finally acing on his true nationalist colors?”
*7 社説「日本の歴史修正は首相の説明を要する」 “Japan’s historical revision deserves clarification from Prime Minister Abe”
*8 NHK 新会長、籾井勝人論議を煽る “New NHK Boss Katsuto Momii Stokes Controversy”
*9 「オバマのアジア再均衡政策、中日関係の急降下で頭痛の種に」 “Obama’s Asia rebalance turns into headache as China, Japan relations spiral down”
*10 首相の靖国参拝「中国利する」 米の知日派アーミテージ氏

〔初出『婦人通信』2014年5月号。タイトルは「海外から見た安倍政権―暴走を報じるアメリカのメディア」。今回の掲載にあたり手を加えました〕